刺青の患者さんの話



ある日、あるとき、初診の患者さんが来院されました。


中肉中背の男性で、若者でもなく高齢者でもない、人の良さそうな落ち着いた「おじさん」という感じの方です。


お話しを聞くと「腰から背中にかけて痛みがあるので治したいとのこと。


触診をするので「シャツを脱いでベッドにうつ伏せになってください」とお願いしました。


と、ここまでは全く珍しくもない治療院の日常だったのですが…。


シャツを脱いでベッドにうつ伏せになって頂くと、なんと男性の背中には実に見事な刺が入っていたのです。


背中だけじゃないですね。


Tシャツと半ズボンで隠れる部分には全て彫り物がありました。


初めて間近で見たのですが、いやー、本当にキレイでしたよ。


実に美しかったです。


構図といい色彩といい、間違いなく芸術の域だなと思いました。


ある種の感動を覚えたのも事実です。


ワンポイントのタトゥーではなく、背面の大部分を使った本格的な和彫りでした。


「子供・滝・魚」が描かれていたのを覚えていたので後で調べてみますと、歌川国芳の坂田怪童丸だったようです。


幼い金太郎が滝を昇る鯉を掴まえている浮世絵です。


Wikipediaさんからお借りしました。


怪童丸(金太郎)と巨大な鯉の組み合わせは、共に端午の節句飾りのモチーフで、男児の成長を願う人々の想いを健やかに絵にした作品とのこと。


そこから男性の立身出世や上昇の象徴として人気の刺青なんだそうです。


刺青の患者さんで困ったこと


刺青の患者さんを目の前にして困ったことをいえば「正中線が分かりにくい」ことです。


私は鍼(はり)治療をやるのですが、絵があることで視角的に判断していた正中(中心)線がどうも分かりにくく、触診で正中を確認しなければなりませんでした。


あ、刺青部分への鍼は全く問題ないと師匠から聞いていたのでズバズバいきましたよ。


恐怖感みたいなのは全くありませんでしたね。


刺青があるからといって反社会的な団体に属している「恐い人」とは限りませんし、もう足を洗った方かも知れませんしね。


刺青=恐怖・悪・反社会的と決めつけてしまうのもどうなのかと…。


体に刺青が入っていようといまいと、患者さんは患者さんです。


求めがあれば分け隔てることなく自分の医療的技術を提供すればいいのではと私は思います。


刺青の患者さん:その後


件の患者さんですが、数回の治療で腰や背中の痛みは気にならない程度に治まり、今は月に1回程度のメンテナンスに通われています。


元気に回復して良かったです。


独立開業されている先生、もし刺青の入った患者さんが来られても無意味に怖がることはありませんよ。


ちょっと皮膚に消えない絵が描いてあるだけで、その他は絵が描いていない患者さんと何ら変わりませんからね。


刺青・タトゥーの先端技術


先ほど「消えない絵」と表現しましたが、現代の医療技術をもってすれば刺青やタトゥーは(ある程度)消せるそうです。


日本で子供さんと一緒に銭湯やプールに行くために消すという方もいれば、もう入れる場所がないので新しい刺青やタトゥーを描くために消すという強者もいるとか。


刺青を入れるにしても消すにしても安くはない費用が必要になるそうなので、もしやるのなら熟考されることをオススメします。


刺青やタトゥーは違法でもなんでもありませんからね。


個人の自由です。


和彫りの見事な刺青が入った患者さんが来られたという話でした。