というわけで保険会社との示談交渉を弁護士さんに依頼するのですが、ここから少しの知識と工夫が必要になります。
何も考えずに話を進めると私が体験したような思わぬ事態(損失)を招きかねませんので注意してくださいね。
まず最も重要な点は、施術者が弁護士さんと契約してはいけないということです。
弁護士さんと契約を結ぶのは施術者ではなく患者さんです。
施術者は「弁護士さんに患者さんを引き合わせる」のが役割です。
この契約方式には大きく2つの理由があります。
まず理由の1つめです。
施術者と弁護士さんが直接契約することも(もちろん)可能ではあるのですが、あえてやりません。
施術者と弁護士の契約では「鍼灸оrマッサージの治療費回収」のみが焦点になってしまいます。
弁護士さんはそれ以外(患者さんの休業補償や慰謝料など)の請求について手出しできなくなってしまいます。
下手をすると患者さんに「自分の請求は放置されているにも関わらず、自分を利用して施術者と弁護士だけが利益を得ている!」といった間違った印象を与えかねません。
これでは患者さんと信頼関係を築けるわけもなく、治療を中断して転院ということも十分に考えられます。
そこで患者さんと弁護士さんが委任契約を結び、示談交渉の範囲を全方向に広げるわけです。
弁護士さんには事故に関係する全ての請求や示談交渉を一任してもらいます。
こうすることで、施術者の治療費はもちろん、患者さんの休業補償や慰謝料などをまとめて弁護士さんに回収してもらうことができます。
2つめの理由は、弁護士費用の問題です。
「弁護士費用って高いんじゃないの?」と不安に思われている方もいらっしゃるかも知れませんが、これも患者さんと弁護士さんが契約を結ぶことで解決されます。
もちろん患者さんに弁護士費用を押し付けるという意味ではありませんよ!そんなことをして患者さんの理解が得られるはずもありませんからね。
弁護士費用を上手く解決し「患者さん・弁護士さん・施術者」の誰も損をしない方法があるんです。
次はこれについて解説していきます。
弁護士特約を活用する!
弁護士さんの仕事に対して支払う費用には、相談料・着手金・法律調査料・成功報酬…などがあり合計すると結構な額になることも珍しくありません。
弁護士費用が示談金を上回ってしまう「費用倒れ」もありえます。
これを解決するのが「弁護士特約」という仕組みです。
この特約は交通事故によってケガを負ってしまった時に、弁護士費用を補償しますよ、という任意保険のオプションです。
弁護士特約は自賠責保険とは全くの別物で、事故に遭われた患者さんが任意保険として加入している特約です。
(保険会社によって、「自動車弁護士費用等補償特約」とか「弁護士費用補償特約」などと名前が多少違いますので、本ブログでは「弁護士特約」としておきます。)
「事故1件につき上限300万円までの弁護士費用を補償する」という内容が多く、ちょっとした交通事故の賠償問題であれば十分にまかなえる金額です。
交通事故の示談交渉を弁護士さんに依頼する場合に発生する費用(相談料や着手金、あるいは出張費などの諸費用)をほぼ全て保険でカバーできます。
費用を気にすることなく、保険会社との示談交渉を全て担当してくれる最強のサポーターを味方にできるわけですから、弁護士特約を使わない手はありません。
保険会社の資料によると、弁護士特約の付帯率は任意保険加入者の30%程度といわれていますが、そのうち実際に弁護士特約を利用した加入者は、わずか0.05%にしか過ぎないようです。
これは弁護士特約が比較的新しいサービスなので、まだ世間一般に広く普及していないからだと考えられます。
弁護士特約の誤解として特に多いのが、
・「裁判になったときしか使えない」とか
・「保険会社とトラブルになった際に奥の手として出す」とか
・「重大な交通事故でしか使えない」といったものです。
これらは全て間違っています。
裁判になっていなくても、また軽い交通事故であっても、ストレスなく迅速に解決するために弁護士さんに依頼しても全く問題ないのです。
また、弁護士特約は被害者に過失があったとしても、被害者自身が弁護士さんを選べます。
10:0の事故でなくても使えます。
しかも弁護士特約を使っても保険等級は一切下がりませんし、その後の保険料も変わりません。
要するに交通事故の際に弁護士さんに示談交渉を代行してもらえて、その費用を出してくれる保険オプションです。
これが弁護士特約の概要です。
繰り返しますが、この特約を使えば、弁護士費用を気にすることなく弁護士さんを味方にでき、極めて有利に示談交渉が進められ、早期に解決を図れます。
しかも等級には一切の影響がなく保険料は変わらないのですから積極的に活用しましょう。
患者さんと弁護士さんが契約を結び、さらに弁護士特約を活用することで、誰にも負担金のかからない「WIN‐WIN‐WIN」が実現するわけです。
ここまでを踏まえると「弁護士特約に加入している患者さんが、弁護士さんと契約する」というケースが間違いなく最強の組み合わせになります。
患者さんが弁護士特約に加入しているかどうかは必ず確認してくださいね。
弁護士特約がない場合の対処法
さて、患者さんと弁護士さんが示談交渉を委任する契約を結ぶ理由は上記の通りなのですが、もし患者さんが弁護士特約に加入していない場合はどうすればいいでしょうか?
任意保険加入者の3割しか弁護士特約を付けていないので、そういうことも珍しくありません。
結構あります。
結論からいうと、弁護士特約がなくても仕事を引き受けてくれる弁護士さんは多いはずです。
弁護士さんにとっては、その後も施術者から患者さん(依頼人)の長期的な紹介を受けられる可能性があり、そのなかには弁護士特約があるケースも含まれているでしょうからメリットの多い話です。
弁護士さんもボランティアではなくビジネスですから、断られることは少ないと思いますよ。
また弁護士特約がない場合でも、着手金や法律調査料といった追加料金を請求しない弁護士さんも増えてきているようです(患者さんに追加料金や追加手数料を強いる弁護士さんとは契約しなくてもいいと思います)。
弁護士特約がなく費用が保険から出ないケースでは、弁護士費用として成功報酬を支払うことになります。
私がお願いしている弁護士さんの成功報酬は「治療費や休業補償金や慰謝料など、保険会社から獲得できた総額の18%」でしたが、これは弁護士さんや弁護士事務所によってそれぞれ違うようですので詳しくは確認してみて下さい。
○○万円という定額制ではなく、○○%という変動制であれば費用倒れすることもないので安心ですね。
つまり患者さんに弁護士特約がない状態で弁護士さんと契約した場合ですと、治療費が本来の請求額よりいくらか減ってしまうということです。
しかし、それでも本来請求額の7~8割程度は回収できるでしょう。
スペシャリストである弁護士さんの助けなくしては、患者さんは自賠責保険を使って鍼灸もしくはマッサージ治療を受けられず、施術者が受け取れる治療費等がゼロだったはずなので、それを考えれば弁護士特約がなくても弁護士さんに示談交渉を依頼したほうが患者さんにとっても施術者にとっても、はるかに有利な選択ですね。
ちなみに、成功報酬を弁護士さんに支払っても7~8割程度という治療費を回収できるのは「弁護士請求基準」があるからです。
自賠責保険の慰謝料など治療費以外については自賠責基準、保険会社基準、弁護士基準というものがあり、弁護士基準が最も高額になる請求基準です。
当然ですが弁護士さんは保険会社に弁護士基準で示談金等を請求します。
つまり弁護士さんに保険金を請求してもらうことで患者さんが受け取れる保険金の額が最大化できるのです。
慰謝料に関しては自賠責基準の2倍以上の額を受け取れることもあるそうです。
そこから成功報酬を差し引いたとしても治療費等はかなりの割合を回収できるというわけです。
※弁護士さんが弁護士基準で請求することで患者さんが受け取れる保険金がかなり増えることもありますが、施術者が受け取れる治療費は当初の請求額以上に増えるということはありません。
施術者が受け取れる治療費の最大額は「請求の満額」ですので悪しからず。
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