思いのほか効果的で頻繁に用いるのが臀部への刺鍼です。
「肩が凝る」と訴える患者さんは非常に多いものですが、「お尻が凝る」と訴える方は…少ないですよね。
しかしながら、実際には長時間の座位や腰の緊張をフォローするために非常に凝り固まりやすい部位です。
しかも大きい筋肉なので全身の筋肉に大きく影響します。
臀部は脂肪と筋肉で厚みがありますので、2寸や3寸の鍼でも全く問題ありません。
1寸3分ではすこし短いかなと思います。
長い鍼を直刺に近い角度で刺入すると坐骨神経を刺激して飛び上がるほどの響き感がありますので、やや寝かせ気味の斜刺で刺入させます。
脂肪層もしっかり厚いので、あまり横刺にしてしまうと筋への刺激が少な過ぎることになりますので、適度な角度を探してみてください。
手首から先の「重さ」を鍼に乗せるような感じでスーーッと入れていきます。
切皮さえ上手くいっていれば、脂肪層は抵抗が少なく鍼を進められると思いますよ。
触診は「広く大きく」をイメージして、あまり細かく考えてはいけません。
中臀筋とか梨状筋とか、初診時から決めつける必要はなく、治療を進めるにつれ、だんだんと浮き彫りのように原因となった筋の緊張が見えるようになってきますから、まずは「広く大きく」診ていくのが鉄則です。
特定の筋肉だけが疲労したり、特定の経穴に相当する部位だけが凝り固まったりすることは、そうそうありませんからね。
疲れや筋緊張は「その辺、一帯」に出てきますし、それを触知することが重要です。
点ではなく面で、面だけでなく奥行きのある立体としてイメージするのがいいと思います。
刺鍼は伏臥位はもちろん、側臥位でも行います。
側臥位だと左右片方ずつしか刺激できませんが、強刺激が可能になります。
側臥位で上になる側の股関節・膝関節を屈曲させると殿筋が伸ばされる(張る)状態にできます。
この姿勢で刺激するとより深部を狙い易いのですが、反面では神経を刺激した落雷のような強烈な響きが起こることもありますので注意してください。
もはや言うまでもありませんが、特に初診時の女性患者さんなどにはタオルなどを使って肌の露出を抑え、羞恥心へ配慮するべきです。
毎日毎日、患者さんのあらゆる部位に鍼をしていると、だんだんと鍼に慣れていない患者さんの気持ちを忘れがちになってしまいます。
鍼灸師にとっては「臀部への刺鍼」は当たり前で珍しくもないことかも知れませんが、患者さんにとって「お尻に鍼を刺される」ことは極めて非日常的なものですからね。
臀部への鍼は腰痛の治療で頻繁に使います。
腰部と臀部の関連についてはテンセグリティー構造で説明がつきますね。
土台となる理論が頭のなかにあると治療の方向性や道筋が組み立てやすいと思います。
・テンセグリティー構造について
この世にある全ての治療法を完全に体得することは難しいと思いますので、そういう引き出しは少なくても構いません。
多過ぎると反対に困ることもあると思います(いわゆるノウハウコレクターというヤツですね)。
どんなやり方だろうとも、患者さんの満足に繋がればオッケーです。
◆要点まとめ
・臀筋をしっかり刺激するなら2寸や3寸を使う。
・直刺で神経を刺激しないように、やや斜刺で入れる。
・より強刺激を狙うなら側臥位の股関節屈曲姿勢で刺入する。
・タオルを上手く使って肌の露出を最小限に抑える。